上田氏との打ち合わせ:1/プロトタイプⅠの製作 2013年4月5日

本プロジェクトが4月4日に承認された後、早速チームは今後のプロジェクト進行のスケジュールについて話し合いを進め、まず、楽器としての基本的な音質や適性などを知るためには、少なくとも1台の5弦チェロのプロトタイプ(試作モデル)が必要となるという結論に至る。

プロトタイプⅠの製作は4月5日に開始され、4月15日には最初の試奏の準備が整った。

 

プロトタイプⅠ

 

製作

4月5日、既存の比較的安価な4弦チェロのボディを用い、5弦用に各所を変換、改造を開始。もととなるこの4弦チェロは、4/4(=フルサイズ。全長750mm;ナットから駒まで;680mm)、恐らく40年前ほど前に製作されたもの。

装備した弦は次の通り。C線=スピロコア(タングステン(注18))G線=ラーセン(タングステン)

D,A線およびE線(注19)=ラーセン

テールピースは5本の弦とアジャスターに適応できる特殊なものを上田氏が製作(画像6,12)。

オリジナルの指板は取り外され、代わりにコントラバスの指板に手を加えたものが取り付けられた。1本追加される指板には相応の幅が必要で、オリジナルのネックから指板が少しだけはみ出しているのがわかる(画像7)。

駒は、4弦とおおよそ同程度に5つの弦の間隔を取るべく、通常より幅の広い頭部を特徴とするものが新しく製作された。駒の脚は4弦と同じスペース、場所に設置された(画像8)。

ペグホール(画像9)は、まず現在開いている4弦分のホールをそれぞれ埋めてから(画像11)、5弦分の間隔を取り、ペグボックスに改めて手動ドリルでひとつずつホールを開け、最上部にE線のペグが装填された(画像9,10)。

 

 

(注18)タングステンは強靭(また非常に高価でもある)な金属であるため、タングステン弦は通常のスチール弦に比べて巻きが薄く製造できる。巻きの薄い弦はボディへの圧力を軽減させ、その結果として素早いレスポンスと豊かな音量をもたらすことができる。

(注19)3つの主な弦製造メーカーであるラーセンLarsen、ヤーガーJargar、ヘリコアHelicoreの各社が、数年前よりチェロのE線の製造、販売を開始している。他の弦に比べてやや高価ではあるものの、ヨーロッパやアメリカにおいては容易に入手できる。日本人ディーラーのカタログでは、現時点では取り扱われていない。

 

 

画像 6 画像 7 画像 8 画像9
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画像 10 画像 11
10 11

 

実験結果[1]

 

サウンド・クオリティ

最初のサウンド・テストは、やや残念と言える結果であった。

 

  • E線…開放弦およびロー・ポジション付近では、鼻にかかったようなこもった音質。他の弦の音質とやや異なり、ヴィオラ・ダ・ガンバ、あるいはトレブル(ソプラノのヴィオラ・ダ・ガンバ)と類似しているように感じる。しかし第4ポジション以上になると、A線上での同音程よりもクリアで大きい音を出すことができる。
  • A線…4弦チェロのA線と比べ、弱い音質である。
  • D,G線…いずれも第3ポジションでの発音が少し鈍い。
  • C線…4弦チェロと比較し、最も変化が少ないのがこのC線である。
  • 全てのF音に強いヴォルフ音(注20)が発生する。

 

(注20)ヴォルフ音とは楽器胴体と弦の振動とが近い周波数のとき、互いの共鳴振動に干渉して発生する、周期的で、唸るような妨害音である。4弦チェロにおいては通常、G線上の第4ポジションにおいてE~G音にかけて強く現れることが多い。

 

全体的に見て、同程度の4弦チェロとを比較した場合、プロトタイプⅠは音量の損失が顕著である。この音量や音質が果たして、改造したもともとの楽器の個性に起因するものなのか、あるいは5弦への改造によってもたらされたものであるのかは、今となっては判断が難しい。この経験を踏まえ、プロトタイプⅡでは、5弦への改造を施す前と後とで音質や音量等のプロパティを比較できるよう、広範囲にわたって実験することとする。

 

 

 

演奏性能

  • 移弦は4弦チェロのそれとほぼ遜色なく演奏できるが、A線のハイ・ポジションを弾く時のみ、E線とA線が少し近い間隔であると感じる(これはE,A線部分の指板と駒の勾配を、今よりも多少角度をつければ解決する事案だろう)。
  • 新しく追加したE線上で、ある程度の良質な音を出せるようになるまでに、いくつかの問題をクリアしたのち、バッハの第6番組曲や、アルペジョーネ・ソナタなどの高音域の難しいパッセージを持つ曲を試してみるのが楽しみである。
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